まちづくりにおける福祉の可能性をさぐる / 日野春學び・くらしの家プロジェクト

20201029

廃校となった小学校をグループホームなどに改修する

山梨県北杜市に拠点とする社会福祉法人である八ヶ岳名水会と共に、廃校になった旧日野春小学校をグループホームと障がいを持つ方々の日中活動の場へ改修する計画です。これまで、入所施設とグループホームの両方を運営してきている法人として、両方のよいところを組み合わせたような、新しいくらしの場をつくることを考えています。

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まちづくりにおける福祉の可能性をさぐる

敷地の位置する旧日野春小学校は、北に八ヶ岳、南に富士山、西に北岳や甲斐駒ヶ岳を望むことのできる雄大でおおらかなエリアにあります。八ヶ岳名水会は旧日野春小学校だけでなく、近くの小さな農場を拠点としながら、就労支援や生活介護の場づくりをしてきています。廃校となった小学校や、担い手を失った農場を引き継ぎながら、おだやかな時間の流れる一帯が形成されつつあります。障がいを持つ方々が地域とともに暮らし活動することが、このまちの日常と切り離せないものになっているように感じられます。私たちは旧日野春小学校界隈での名水会の活動をみて「福祉はまちづくりの原動力になる」という気持ちをもつようになりました。計画は、そうした方向をすこしでも強くするようにしています。

商店街のような軸線で地域にひらく

既存の旧日野春小学校はこれまでも福祉施設としてだけではなく、アフタースクールの活動をする団体や、近隣の住民のサークル活動などの拠点となっていました。敷地内では八ヶ岳名水会のプログラムの利用者だけでなく、近隣の住民や子供たちなど多様な主体がのんびりと場所を共有しています。この計画でグループホームが一定の面積を占めることになっても、これまで培われた主体の混在の魅力をできるだけキープすることはできないかと考えました。検討の結果でてきたキーワードは「商店街のような」軸線です。校舎の前庭をだれでもはいることのきる商店街のみちとしてとらえ、そこに開放性の高いプログラムを配置しています。プログラムは建物だけではなく、既存のうさぎ小屋や建設ででた土でつくった築山などを想定しており、「The Power of 10+」という概念(アメリカのProject for Public SpaceというNPO法人が提唱するまちづくりの考え方。園田聡さんによる「プレイスメイキングーアクティビティ・ファーストの都市デザイン」に紹介されていることから知りました)に影響をうけつつ、なんとなく10個ぐらいの楽しい要素を並べようと思っています。

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福祉の「小さな風景」の採取から見えてくること

日野春に通う中で、個性豊かで魅力的な利用者の方々に出会ってきました。彼らそのものの魅力だけでなく、彼らや世話人の方々の日常が生み出す多様な居場所にも魅了されます。足りないものは全部自分でつくるという精神で、あらゆるものが生み出され、カスタマイズされつづけています。その様子は、まさに乾事務所が追い求める「小さな風景」そのものです。私たちの設計した建物が、彼らのもつ独特な「小さな風景」群の一部として位置づいてほしい、そのためには何を気をつけたらいいのかを考えながら設計を続けています。その後、2021年11月から諸事情により計画が一旦停止しています。またよいタイミングで再開できることを期待しています。

information

期間

2020.7〜2023春予定

用途

グループホームなど

担当

乾久美子、武蔵眞己、川又修平、米山剛平

所在地

山梨県北杜市

延床面積

約2000m2

施主

社会福祉法人 八ヶ岳名水会

設計

建築 乾久美子建築設計事務所
構造 KAP
設備 知久設備計画研究所

撮影

乾久美子建築設計事務所