長期にわたって取り組む地方都市のまちづくり / 延岡駅周辺整備プロジェクト

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20190506
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多様な主体とまちづくりを考える

8年以上にわたって取り組んだ延岡市の駅周辺整備計画です。JR駅舎前に建つ複合施設(エンクロス)、自由通路、東西ロータリー、駐輪場などの再整備などを一体的に行っています。多様な要因によって衰退するまちなかをどう再生していくのかということについて、市民と共に考えたり、延岡市やJRを始めとする交通事業者、土木や都市計画の専門家とも協働したりしながら、立場や専門分野を超えた多様な主体と共に検討してきました。私たちはデザイン監修者として全体を最後まで伴走しながら、施設によっては設計や工事監理まで行いました。

市民ワークショップで駅まちの可能性を探る

敷地は駅前です。ロータリーの形状変更をしながら、駅とまちが一体となった市民の居場所をつくることが予定されていました。そのことを前提にして、駅前で何ができるのか、駅前で何をすると日常的に人が集うような場所になるのかということを市民ワークショップで議論しました。市民ワークショップはコミュニティ・デザインの専門家である山崎亮さんを中心に、1年以上の時間をかけて何度も開催しました。ワークショップの意見はポジティブなものが多く、それらは建物のプログラムを決める上で欠かせないものとなりました。また、市民ワークショップを通して、まちづくりの機運が醸成されたことも大きな成果でした。

20190426

身の丈にあったサイズのプロジェクト

最初の数年は建築物や土木構造物などフィジカルな要素の設計ではありません。どのようなプログラムの建物をどのぐらいの規模でつくるのかというような、プロジェクトの組み立てそのものをデザインの対象として検討していました。特に規模の決定は、将来的な運営の持続性を考えても重要だととらえ、身の丈にあったサイズのプロジェクトとすることをデザイン監修者として提案し、同じような危機感をもっていた延岡市に受け入れていただきました。

駅前に「ちらし寿司」と「市民活動の可視化」を

プロジェクトを通して繰り返し伝えていたのは「ちらし寿司」と「市民活動の可視化」です。なんのこと?とよく聞かれます。駅前に市民の居場所をつくることのメリットを考えると、その二つが組み合わさることによる相乗効果を最大限に引き出すことが大切だと考えました。また、交通の活動と市民の活動を隣り合わせに配置するだけでは不十分で、それぞれをできるだけ細かく砕いてちらし寿司の具のようにバラバラに散りばめたほうがよいと考えました。そうした考えを「ちらし寿司」に例えてモデル化し、市民や関係者と共有しながら議論を進めました。また地方都市でよくあるなのは、活動していても、にぎわっていても、建物の中で閉じこもって行われているので、通りから全くに見えないことです。そうしたもったいなさを取り払うべく、このプロジェクトで生み出す市民の活動は通りから見える状況にすることも関係者全員で共有しようとしました。

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20181025

大らかなフレームの中に散在する市民活動

プロジェクトは全部で13ほどの部分に分かれていますが、中でも最も大きな施設である「エンクロス」の設計を行うにあたり、類似施設の使われ方や空間の質の調査を行いました。全国の施設を見ていく中で見出したのは、空間とそれを自由に使いこなすつかい手の相補関係です。市民の居場所、市民活動というのは多様な様相を呈します。小さなグループもあれば、大きなものもあり、何かを静かにつくっているものあれば、音を出すものもあります。そうしたものが「ちらし寿司」状に散りばめられている状況をつくりだすためには、空間をつくりきらず、多様な可能性に開いておくことが一番大切だと感じ、おおらかな骨格(フレーム)としての建築を提案しています。フレームのスパンや高さは隣接するJR駅舎に近づけるようにしながら不均質なゆらぎをつくり出しつつ、周辺施設同士との間の視線の抜けを確保、1階の階高を抑えることで通りや周辺の街から施設全体の活動が見えるようにすることを大切にしました。人の行き交う駅と一体となる施設であることを最大限に生かし、様々なものの偶然の出会いを生み出しながら、緩やかに人とのつながりを感じる居場所をつくりました。

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市民の居場所として定着、建築学会賞やグッドデザイン金賞をいただきました!

2018年にオープンした「エンクロス」ですが、沢山の市民に使われています。設計者として特にうれしいのは、中高生の居場所になっていることです。小規模な地方都市ではなかなかない風景です。中間や期末試験期間になると、市民活動スペースとして用意した内外の机や椅子が彼らで占められてしまうほどです。またプロジェクトの初期から始まった市民活動や、面白いイベントをしてくれる市民の発掘が指定管理者であるCCCに引き継がれて継続的に行われたことが功を奏し、ほとんどの活動が市民持ち込み企画になっています。今(2021年)はコロナでオンラインの活動が含まれています。なお、本プロジェクトはまちづくりに寄与したことや建築作品としても評価され、日本学会賞(作品)をいただきました。また、延岡市を含む沢山の関係者でグッドデザイン賞に応募したところ、見事、金賞をいただきました。

担当、山根俊輔は…

担当者の山根は8年間延岡に通い続け、一時は、延岡市に住み込んでプロジェクトに取り組みました。その中で延岡に多くの仲間ができたようで、エンクロス竣工後に果たした独立後、自身の事務所を立ち上げ、仕事の拠点の半分が延岡市という状況になっています。エンクロスの周辺で設計したり、地元企業とコラボレーションしたり、まちづくりに関わりそうなものをいろいろとトライしています。

20181025

エンクロスでは市民活動やイベントの参加を募集しています

エンクロスでは市民活動やイベントを積極的に行い、参加者を募集しています。また、市民をゲストとして迎えることのできるような市民活動を行ってくださる個人や団体の募集も継続的に行っています。(エンクロスでできること)ゆったりとしたエンクロスの空間で活動したいなと思われる方は、ぜひご参加ください。

オープンして4年、駅まちの議論が再開しつつあります

エンクロスがオープンして4年、市民の居場所、延岡市の顔としてすっかり定着しました。これまで活動していた方々のものをはじめ、エンクロスがあることによって新しい市民活動が続々と生まれてきています。周辺では、waiwai PLAY LABが入居する延岡駅西口街区ビルが建ち、新しい店舗もちらほらと開店してきています。こうした流れの中で、市長の発言を皮切りに運営方針などに対しての議論がまきおこりつつあり、プロジェクトのもともとの火付け役、延岡建築士会の方々によるシンポジウムが開催されました。エンクロスと延岡の駅まちがこれからどうなるか。これからも注視ください!

Information

期間

2011.2〜2018.11

用途

駅、市民活動スペース、図書閲覧書籍販売、カフェ

担当

乾久美子、山根俊輔、佐保紗音子、綿引洋、村国健

所在地

宮崎県延岡市

延床面積

1659m2(エンクロス)

施主

延岡市

設計

建築 乾久美子建築設計事務所
構造 KAP
設備 森村設計
照明 シリウスライティングオフィス
トイレ 設計事務所ゴンドラ
コミュニティデザイン Studio-L

施工

建築 上田・児玉・朋幸・久米特定建設工事共同企業体
空調 興洋・小田設備特定建設工事共同企業体
衛生 ミナミ設備
電気 岸田・パシック・川原特定建設工事共同企業体
(エンクロスのみ)

撮影

阿野太一、新建築社写真部