風景の中にひそむ表情を読み、リソースをさがしだす / 乾久美子+東京藝術大学乾久美子研究室展ー小さな風景からの学び

20140618

「小さな風景」と題して、私たちが好ましいと思う風景を調査

東京藝術大学乾研究室の学生と共に行った風景のリサーチです。私たちが好ましいと思う風景とは何かという素朴な疑問を携えて、日本全国をめぐりながら大量の事例を写真として集めました。結果として、木陰やベンチなどのちょっとしたものや井戸端会議にぴったりな感じの居場所などで、地域の人々に共有されて「コモンズ(共有財)」となっている様子や、人の関わりによって成長し続けているような場所が事例として多く集まりました。大量の事例写真の分析を通して、自然からのサービス、人為的なサービス、偶然のサービス、ユーモアのあるサービスなど、私たちは空間の中でさまざまな次元でサービスを享受しつつ、その質を表情として読み取っているのではないかという仮説をたてました。

20140618

「計画された/生きられた」を超えた、空間づくりの普遍性

空間からのサービスをよりよく受け取ろうと私たちは多様な工夫を行います。工夫に設計の専門家であることと、そうでないことの差はありません。設計やデザインとしてあざやかな工夫をする場合もあれば、長期間かけて地域の人々が工夫を積み重ねることで素晴らしい環境を作り上げる場合もあります。誰しもが空間の表情をよみとり、そこに手を加えて、よりよい環境をつくっていっているのではないかという視点に立てば、「計画(設計)されたもの」と使用者の使いこなしの中でつくられる「生きられたもの」という区別を超えた空間や場所の普遍的な価値のありようを捉えられるのではないかと考えました。リサーチはTOTOギャラリー・間での展覧会と書籍としてまとめ、リサーチの知見は、その後のInui Architectsの設計に欠かせないものとなりました。

20140618

多くの書籍に支えられたリサーチ

本リサーチで参考にしていた文献はたくさんあります。リサーチの厳密さや理論的展開の方法については「パタン・ランゲージ―環境設計の手引」(クリストファー・アレグザンダー)から、現代においてリサーチを行う意義や楽しさは「メイド・イン・トーキョー」(貝島桃代、黒田潤三、塚本由晴)から、写真の組み合わせから構造を抽出することや撮影の方法論については「Typologies of Industrial Buildings」(Bernd Becher、Hilla Becher)から、空間ではなく場所について考える方法論については「空間の経験―身体から都市へ」(イーフー・トゥアン)や「場所の現象学―没場所性を越えて」(エドワード・レルフ)から、中でも特に建築における場所論については「生きられた家」(多木浩ニ)から多くを学びました。すべて古典中の古典ともいえる書籍で、何度読んでも面白いものばかりです。

10+1website2019年8月号に『Inui Architects』刊行記念特集として掲載された書評の中で、「小さな風景からの学び」についてもふれらています。ぜひご覧ください。
■なぜそこにプーさんがいるのか──『Inui Architects──乾久美子建築設計事務所の仕事』書評|大村高広(東京理科大学大学院)

information

期間

2014.4.18~2014.6.21

担当

乾久美子、下岡由季、森田夏子、吉野太基、谷田一平、野上晴香、宮崎侑也(東京藝術大学乾久美子研究室)、西澤徹夫(教育研究助手、東京藝術大学乾久美子研究室、西澤徹夫建築事務所) 森中康彰、山根俊輔(乾久美子建築設計事務所)

会場

TOTOギャラリー・間

施工

MAPALUS.co

撮影

長谷川健太