これまでの学校の文化を引き継ぎながら復興のシンボルをつくる / 七ヶ浜町立七ヶ浜中学校

すでに敷地にあった「リトルスペース」を継承
七ヶ浜町は仙台市郊外にある小さな半島にあり、松島を望む自然豊かな環境が広がっています。被災した七ヶ浜中学校は町役場、小学校、体育館などと共にまちの中心としての景観をかたちづくっていました。ゆったりとした敷地にはあちこちに作業小屋や東屋、藤棚のようなラックがあり、学校らしく、外での活動が活発であることがわかりました。そうした学校の文化を継承するように、「リトルスペース」と呼ぶ小さな空間を、校舎の屋内外のいろいろな場所に配置しています。

復興プロジェクトの制約を乗り越える
被災地のプロジェクトは厳しい予算的制約の中で進められることが多いです。ここでは、被災した旧校舎の床面積を踏襲することと,国からの補助金の範囲内の工事とすることが強く求められました。しかし旧校舎は量的整備が全盛期だった時代のものであり、その面積を踏襲すると、近年の教育の多様化に答えることが難しい状況でした。そこで、市や学校と綿密な対話を繰り返しながら教室をはじめとする諸室の面積を適正な値に絞り込み、「リトルスペース」を習熟度学習など多用途に使える要素として位置付けていくことや、棟と棟の連結部の廊下を図書スペースとするなどの工夫を行い、コンパクトながら多様な学びが可能な校舎を目指しました。


周辺の自然とつながる明るい学舎
それぞれの棟は中庭をもつドーナツ状の校舎を連結する形とすることで、どの方向にも外の風景が広がる明るく大らかな学びの場所にしています。植栽計画は、復旧ではなく復興、つまりBuild Back Betterとなるプロジェクトとして、周辺の町有林から苗木を採取して校内に移植し、郊外住宅地としての開発により蚕食される自然環境を少しでも保護、育成することを考えました。
information
- 期間
2011.12〜2015.3
- 用途
中学校
- 担当
乾久美子、奥山尚史、大石藍、伊藤孝仁、村國健、山根俊輔、小坂怜
- 所在地
宮城県七ヶ浜町
- 延床面積
4703m2
- 施主
七ヶ浜町
- 設計
建築 乾久美子建築設計事務所
構造 佐藤淳構造設計事務所
設備 環境エンジニアリング
サイン 菊地敦己事務所- 施工
淺沼組
- 撮影
阿野太一、山岸剛