水害に強い形を考える / 人吉みんなの家
水害に強い形を考える
2020年7月の九州豪雨で氾濫した球磨川により甚大な浸水被害をうけた人吉市に対し、被災した公民館の再建をお手伝いしました。熊本県アートポリスのひとつである「みんなの家」事業の一環のプロジェクトです。「みんなの家」の中でも公民館型と言われるもので、人吉市内に全部で4棟計画しました。コンクリートの立ち上がりを一般的な高さよりもすこしばかり高くすることで建物の下半分がお椀のようなものとし、ある程度の水害に耐えられるものにすることを考えて設計しています。
お堂のような存在感
人吉は古くから温泉のある城下町で観光地としても賑わってきましたが、浸水被害により建物の多くが失われてまち全体の密度感が失われています。しかし、国宝の青井阿蘇神社をはじめ、小さなお堂や祠が町中のあちこちに点在しており、充実した歴史の積み重ねを感じさせる雰囲気が色濃く残っています。特に朝の濃霧の中に浮かび上がる歴史的建造物やまちの姿に神秘的なものを感じることができ、たくさんの妖怪がでてくる漫画・アニメ「夏目友人帳」の舞台になっていることになんとなく納得してしまうような場所です。そんな町の中の「みんなの家」はお堂のような存在感であるのがよいと考え、屋外からは屋根がどっしりとした存在になり、屋内からは屋根の空間の奥深さを感じるような寄棟の建築にしています。
それぞれの町にそれぞれの形
4つの町はそれぞれのやり方で公民館を利用、運営してきました。町のサイズや年齢層などもバラバラです。また、町内会の空気感や大切にしているものも異なります。これまで二つの町だったところが共同でひとつのみんなの家をつくるというケースもあります。4棟のみんなの家はお椀のような基礎と寄棟という特徴は共通しているのですが、敷地の特徴や使い方などに対してプロポーションや大きさ、プランを違えています。プランニングは、それぞれの町の自治会長さんや住民の方々とワークショップやヒアリングを行いながら進めました。色は朱色から焦茶色のグラデーションの中から、周辺の町の色と建築の色との間の響き合いを考えつつ決めました。
また、どの町も若い住民の自治会への参加を増やしたいと考えています。そうした思いを叶えるためにも、裏のない、どこからでも活動がみえるような、開放的なあり方を目指しました。
- 期間
2021.11〜2023.7
- 用途
地区公民館
- 担当
乾久美子、大藤尚生、川又修平、福嶋海仁、栗林勝太、堀上薫乃
- 所在地
熊本県人吉市
- 延床面積
温泉町:105m2
大工町・二日町:92m2
宝来町:59m2
下新町・上新町:56m2- 設計
建築 乾久美子建築設計事務所
構造 佐藤淳構造設計事務所- 撮影
新建築社写真部